箱根外輪山一周

Date: 2002.4.20
Members: 安藤
Area: 箱根
Type: 個人/カモシカ

報告:
土曜日の夕方から箱根湯本で業界の総会があり、会社の経費で往復できるチャンスをちゃっかり利用してハイキングに行って来た。

タイム:
23:55塔ノ沢バス停--0:45塔ノ峰--2:05明星ガ岳--2:30〜45宮城野分岐--3:20明神ガ岳--3:45〜55明神平分岐--4:05火打石岳--4:50〜5:05矢倉沢峠--5:45金時山--6:20〜40乙女峠--7:05丸岳--7:30〜50長尾峠--8:40〜55芦ノ湖展望公園--9:15湖尻峠--10:10〜35三国山--11:15山伏峠--12:00〜15海平--12:55箱根峠--13:50〜14:10元箱根--14:40甘酒茶屋--15:20〜35畑宿--16:55箱根湯本宿泊先
天候:曇り時々雨

感想

登山は例えどんなに現実主義者を自負する人でも、結局はロマンチストでないと務まらないと思う。過去の偉大なる登山家たちも例外なくそうであったように・・・。

ロマンチストは持ち前の想像力を働かせて登山を形として創造する。前人未踏の頂や壁だったり、更に季節や様々な条件付けをした登り方だったり。そして我々のようなごく一般的な体力や技術しか持ち合わせていない人間で例えると、山の地図を広げてその地形や周囲の景観を想像してみては、ガイドブックに載っていない自分なりのルートや楽しみ方を創造することで表現されて来る。つまり個としてのパイオニアワークにどれだけ熱くなれるか、そして他人から見れば何故そんなことをするのかと疑念を抱かれるくらい(要するにバカ)の方が、重力に逆らう行為を利益抜きでわざわざやろうとする者として、よりふさわしいような気もする。

昨年の丹沢表尾根横断遡下降同様、今回の箱根トライアングル(湯本、金時山、元箱根を頂点とした三角形)も、いつか辿ってみたいルートのひとつだった。タイムリミット5分前、満身創痍の劇的なゴールインで総会に間に合い、ともかく体裁は繕えた。当然のように左膝だけでなく、左右の股や足首等、下半身全ての関節や軟骨が相当擦り減ったのではと思える、充実の17時間行動だった。

ところで、そんなにキザな報告だけで終わるわけがない。なぜなら今山行に踏み切らせた最大の理由が他に存在したからだ。

実はその・・・・言いにくいのだが買ってしまったのだ(何を?)。安達太良高原スキー場の投光器みたいに明るい、あのLED発光式の新型リチウムヘッドランプを!

本当なら新婚のS子さんが将来ご懐妊の節に、内祝いとして払い下げてもらう約束だった。明るくてコンパクトで電池寿命が永いのはどうしたって魅力的。さして高価でもないのがS子さんを待てずに触手を伸ばす決め手となった。自分としたことが安易に周囲に流されて衝動買いをしたのだ。でもって・・・買って非常に後悔した。それはT君やI君から初めて現物を見せてもらった時「こんないいモノ持ってるヤツは全員、そのぶん負荷を掛けて耐久レースに出なきゃ本末転倒だ!」と、つい口を滑らせてしまったからだ。それを思い出した途端、欲しかったはずの商品と引き替えにした現金が急に惜しくなって来た。今さらのように現金に詫びれば詫びるほど、逆に手中のヘッドランプにも申し訳なく、優柔不断男はこうして相手が人間だろうが無機物だろうがお構いなしに、何百回目かの墓穴を掘って行く。

気を取り直し、あえて部屋の照明を全部消してこのブツを頼りにトイレに入ったり食事を作ったり洗濯物を畳んだりもしたが、その力強い光源とは裏腹に気持ちはどんどん暗く惨めになる一方だった。これじゃ自室にこもって眺めて一人悦に浸るのが目的で、わざわざ高価なデジタルビーコンを買い求める超マニアックな某OBの価値観とたいして変わらないじゃんか。と言うわけで結局は有言実行を旗印に、泣く泣く山に行かざるを得なくなった次第。ブツの取扱説明書にも、いかにも夜間登山を奨励しているかのようなイラストがあったのが、せめてもの慰めだった。これできっと現金も成仏してくれるだろうし、ブツにも愛着が沸いてきた(古いヘッドランプは停電用に備えよう)。

単独のカモシカ山行には比較的慣れていたので、ブツは格段に快適な商品に思えた。がしかし、装備がまたひとつ進歩を遂げるたびに、本来あるべき人間の五感や大自然に対する免疫が徐々に損なわれ、しまいには狂牛病の脳ミソみたいに登山者の全身がヤワなスポンジ状と化してしまうのではないか。いつか登山の本質をすっかり見失う空洞化時代が到来するのではないかという不安もあり、非力ながら何らかの形で警鐘を鳴らしたかったのも事実なのだった。

それからエピソードをひとつ。
タダでさえ早足になりがちなカモシカ山行。それは山に取り憑かれて登ると言うよりも、むしろ肝試しよろしく何者かに追われているような恐怖心から逃れる為に走ってしまうだけ。しかもそこは深い霧で視界が約10m。早くこの真っ白な世界から抜け出したくて更にスピードを上げたまさにその時、突然正面の霧の中から野獣独特の低く長い唸り声が! 明らかにシカの声ではない。急ブレーキを掛けるより早く全身の血液が逆流して瞬時に総毛立った。間髪入れずドタドタという足音! 身構えてライトを頼りに凝視しても、霧で彼我の距離がさっぱり計れず恐慌状態に陥る。果たして先方は離れて行くのか、それともこちらに襲いかかって来ているのかさえわからないなんて、もう生きた心地がしなかった。そしてザワザワと藪を分ける音がしてやがて静かになった。

きっと相手も臆病なイノシシだったのだろう。いずれにしても彼らのテリトリーに侵入したのはこちらの方なので「驚かせてゴメンねー。もう大丈夫だよー。ちょっと通してねー。」と何度も猫撫で声を掛けながら、当のケモノがいたあたりを恐る恐る通過して一目散に走って逃げた。次回は最初から鳴り物を付けて進むのが、せめてもの彼らへの礼儀としたい。6年前にロシアで野生動物の取材中クマに襲われて急逝した、星野道夫という人の遺作をつい最近読み終えたばかりだったので、ある程度の覚悟はしていたであろう彼の場合、最後のその瞬間にはいったいどんな想いを味わったのだろうかと真剣に考えさせられた。

とにかく野犬などでなくて本当に良かった。おロクの方がまだおとなしいぶん、逆にあの唸り声は暫くトラウマになるかもしれない。そしてこの報告を最後まで読んだA君は、こんな不吉な遭遇を繰り返す男と二人だけの山行に、たぶんもう二度と付き合ってはくれないだろう。