荒沢山カドナミ尾根
Date: 2004.2.8
Members: L.安藤
Area: 上越
Type: 個人/雪一般
紀行文:
都心からR17を下ること5時間半。前夜のうちに湯桧曽駅まで入って雪見酒。寒波襲来だの雪洞で救援を待つ14人の学生がいるだののニュースに、田名
部っちが置いて行ったスノボ特訓にでも切り替えようかと迷ったりする。

駅から荒沢山(左)と足拍子岳
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翌朝、湯桧曽は花曇り。向こう(越後側)も良くてこんなもんだろうか。駅に車をデポして、とりあえず8:
22発下り列車の人となる。二駅320円の小さ
な旅。ここでは誰もが川端康成になれる。果たしてトンネルを抜けて驚いた。そこはなんと快晴の雪国だった。一時的に冬型が緩む予報とはいえ、ここまで良い
なんて今期の自分はなんとまぁ、幸運な晴れ男であろうことかな。(一瞬、芹澤調)
土樽では5〜6人が下車。みんな山スキーの様子でひと安心。はやる気持ちを抑えきれず、最初に駅舎をあとにする。橋を渡ってワカン装着。ツボ足のかすか
な踏みあとは、取り付きの早大小屋で引き返していた。なんたってラッセルしに来たので再度「ラッキー」とつぶやく。積雪はクリスマスに来た時より1m以上
増していた。こりゃ登頂までは無理かな。それでも春のようなこの好天が続く限りは、例え終電(19:32)までかかっても雪山を遊びつくさなきゃ損だと覚
悟を決める。
ラッセルのスピードは上がらなかったが、休憩する気も全然起きなかった。おかげで前回より遅く駅を出たにも関わらず、12月の最高到達点には同じ時間帯
に着いてしまった。これで山頂へも「行ける」と確信。当然の如く尾根上の雪庇は明らかに発達していた。まだ2月初旬。これからどんどん張り出して来るのだ
ろう。下からは誰も来ない。高山とは違って周囲の樹林や植生で実際の地形を予測できるのはまだ安心だけど、そこは豪雪地帯の怖さもある。ここから先の未知
なる雪面にいざ自らが最初に踏み込むのは、やっぱりおのずと慎重になってしまう。Sさんの言う「動物的領域の旧皮質」とやらが否応なしに問われる場面だ。

1000m台地のバージンスノー
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テンポよくラッセルは続く。バテない。今期は妙に気力が充実している。意外に開けた1000m台地に到
着。ここは絶好の幕場(ハカバと読むなかれ、E
君)。右手に連なる足拍子岳への雪稜が峻険さを誇る。あの雪庇処理は実に面白そうだ。が、単独であそこまで行くのはためらわれる。
正面には目指す頂上も見えてきた。最後の急登で本日3回目の弱層テスト。ここで初めて雪面より10cmと40cmの積雪内部に顕著な弱層を発見。ワカン
を脱いでストックをピッケルに持ち替える。万一この先で滑落しても捜索の手掛かりになるよう、ワカンとストックはその場に残置する。なるべく2段目の弱層
に刺激を与えないように、キックステップをそっと確実に決めて行く。一度踏み抜いて雪庇の巻き込み空洞に見事スッポリはまる。這い上がるまでの時間がやた
ら長く感じられた。
頂上直下のわずかな岩稜は格好のアクセント。最後は小さな雪庇を切り崩して山頂に躍り出る。するとその反対側も雪庇だった。さすがは国境稜線から足拍子
を経て、北北西に向かって派生する尾根だけのことはある。つまり独特の地形による微妙な風向変化の影響を受けて、偏西風が稜線の両側に雪庇を発達させてい
る要因なっているようだ。大絶景。地球が丸く感じる。それでも標高はたったの1302m。越後の山はそんな数字すら無意味に等しいほど、別の魅力が満載だ
から大好きだ。もっと近かったらな...。どビー缶色の空に、本物のピースが1本欲しくなった。ここまで約5時間。休憩は2回、各5分づつだった。

両側に雪庇の気が抜けない山頂
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今回は週休一日の暮らしが続くなか、ふらりと日曜だけここへ来たようなもの。それだけに12月に一緒に来
た某ユニットの諸君を出し抜いたようで、ちょっ
ぴり気が引けた。ましてやこんないい天気。恐らく本日の入山者は、あとにも先にも一人だけだろう。足下にはまだ自分だけしか辿っていない、正真正銘
「100%ピュア・バージントレース」があるのみ。なんだか自分だけがこんな素晴らしい想いを独占しているのが本当に申し訳なく、せめてこの美しきライン
に愛称を付けることにした。
ヒマラヤ襞が散見できる威圧的な足拍子岳を間近かに眺めながら思案する。もしや悟空さんあたりは悔しがって地団駄踏むかも...。そこでハニーさんがご
執心だったどこぞの岩場のルート名を文字って、このトレースを「泣かないでアヤちゃん」と命名した。別にたいして深い意味はない。どっちにしたってこの無
形文化財は、世のおおかたの恋情の末路にも似て、一度吹雪かれれば人知れずはかなく消えて行く運命にあるのだから...。(う〜ん、今週こそ綺麗にまと
まったなぁ。......と思ったら、そうは問屋が卸さなかった。というか荒沢山が降ろしてくれなかった。)
雲が出てきて陽が陰ったのを潮時に山頂をあとにする。たった半日でも適時絶妙なる晴天に感謝。あとは自己満足に思いっきり酔いながらのんびり下ればいい
や。...最初は樹林もまばらなので、まだいくらかマシだった。しかし下れば下るほど疎林の中の深雪に足を取られて全然ピッチがあがらない。
それもそのはず。その雪道はまだ体重54kgの小男がたった一人しか乗っていない、まさに見かけ倒しのものだったからだ。ましてや体重以上の負荷が積雪
にかかる下降は、登高以上に厄介なラッセルとなるのは明白。そんなことも忘れるくらい文字通り有頂天になっていたらしい。先ほどの美しきライン感覚はどこ
へやら。今度は5時の臨時列車に間に合うか焦り出す。「こんなお粗末なトレース、いったいどこの誰が付けやがったんだ!」...しまいには「泣かないでア
ンちゃん」に改名せざるを得なかった。
湯桧曽駅に降り立って下山報告。心地よい疲労感と達成感に浸るも、雪洞の学生達がまだ救出されていないとラジオで知って驚く。でも「見えないザイル」の
無線機があるならさぞや心強かろう。帰りはR17も7時間がかり。今週もまた自分は「生かされた」ような気がした。体重が2kg減っていた。
タイム:
土樽駅8:45---早大小屋9:00---850m地点11:05〜10---
1000m台地12:00〜05---荒沢山13:45〜14:15---往路を下降して土樽駅16:20