石尊稜
Date: 2004.2.29
Members: L.安藤、吉田(法)
Area: 八ヶ岳
Type: 個人/バリ
八ヶ岳山荘で仮眠。美濃戸への林道は、四駆&スタッドレス&チェーンなら
ば、なんとか通行可能だが、轍が深いので車高が低いと氷で腹をする。
赤岳鉱泉までのアプローチからして吹雪く有様。人工アイスウォールが完成し、スポンサーの旗がはためく鉱泉でガチャを付けて出発。寒くは無いが、風が強く
視界も無い。先月よりも手前で稜に上がるが、ここ一週間暖かかったせいか、雪の中で霜ザラメ化が進み、ラッセルがしんどい。ほとんど木登りで進む。
1ピッチ目。新品のアイゼンを付けた中高年4人を連れたガイドPが先に取り付いていたので、左の凹状を登る事に。安藤リード。一度解けてナメ滝になってか
ら再度凍ったのだろう、かなり状態は悪い。中間部ではランナウトして、アイゼンの爪一本で立ち込んだりして緊張する。右のスラブルートでは2ピッチの下部
岩壁だが、こちらは1ピッチで潅木まで届く。
ロープを畳み、先行Pを追い越してスノーリッジを崩しながらズンズン進む。
上部岩壁も安藤リード。こちらは大きなホールドで爽快クライミング。ウソ。風でコールは届かず、顔にビシビシと雪礫が打ち付けられる。1ピッチでロープは
解除し、傾斜の緩くなった斜面を上がって、縦走路に飛び出す。凄まじい吹雪。
握手して互いを労い、すぐに地蔵尾根目指して南下。雪はアラレ状になり、風上に顔を向けられない。ちょっとでも風上を見ようとすると、眼球にアラレの散弾
銃が打ち込まれる。打ち込まれながら地蔵尾根を下降。樹林帯に入ってから休憩。ほっとした。
2/28
19:10 代々木集合
21:40 美濃戸口(23:30就寝)
2/29
4:00 起床=車で美濃戸へ移動
5:45 美濃戸
7:10~40 赤岳鉱泉
8:55~9:20 下部岩壁取り付き
12:20 石尊峰
13:50 行者小屋(地蔵尾根下降)
15:15 美濃戸
感想
吉田(法)
天気が悪いことは予想されていたが、赤岳鉱泉へのアプローチで早くも吹雪かれていると
き、不思議となんだかワクワクしていた。普段なら停滞かゲレンデアイスを考えながら歩くところだが、今回はイケルと確信していた。安藤さんもサラサラ辞め
るつもりはないらしく、そのまま突撃。
目的その1。石尊稜取り付きまでの確認。安藤さんがリードする予定なので、取り付きまではトップでラッセル。結論として正解は無いんじゃない?
どこを行ってもそれなりに大変ということで。
そして下部岩壁。氷と岩の悪いミックス壁になっていて、安藤さんナイスリード!
右のスラブより難しいだろう。もし万が一、もう一回来ることがあれば、今度はここをリードしよう。
もう一つの目的は、悪天での行動。猛烈な風で目も開けられず、もちろんトレースなし、視界も効かない稜線から帰ってこられることを試したかった。パニクっ
てもおかしくない状況で、二人とも落ち着いてルートを探し、さほどの苦労もせずに降りてこられた。何度も歩いた道だからできたことだが、とても良い経験に
なった。自信がついた。
冬合宿以来、緊張感の無い山行が続いていたが、やっぱりこういう山行こそ充実する。山という自然に真正面から組み合って頂上に立ち、安全地帯までスタコラ
降りてきて「ウヘー、しんどかったぜー」とザックを投げ下ろす。これが醍醐味ですな。
安藤
あの晩。酔って濡れた目をしたハニーさんの誘惑に負けて、「一度きりなら」と2人連
れだって妙な気さえ起こさなきゃ、この石尊稜は1月18日に吉田君たちとトレース出来ていたルート(「妙な気」=河又でビレイしてあげる約束のことだ
ヨ)。
ところが魔女(?)の手に落ちてしょげていた僕を見かねて「2月か3月に日帰りでサクッと行きましょう!」なんて、当の吉田君の方から救済宣言してくれ
たものだから、嬉しいやら申し訳けないやら...。山岳ガイドじゃあるまいし、先月オールリードしたばかりにも関わらず、僕なんぞのために2ヶ月続けて同
ルートへそれも遠く「八ヶ岳」まで「日帰り」で「自費」で向かうとは、なんと心優しい男なのだろう(女性会員諸君!早くしないと貴奴は売れてしまうゾ)。
万年3級クライマー(表現が古い)の僕にとって経験も実力も遙かに上級の仲間に、こんな成り行きでロープを組んでもらえるチャンスは滅多にない。となる
と、もはやツルベ登攀でも自分に納得がいかない。この上は僕もオールリードで応えるのがせめてもの恩返し。嗚呼、これが義理と人情に厚い真のオトコの世
界ってもんよ(ちなみに僕も売り出し中なんですけど)。悪天は予想済みだったので、多少無理しても神経を集中させてミスさえ犯さなければ抜けられると、全
天候型で突っ込むだけの覚悟はしていた・・・。
まぁカラ元気はそのくらいにして、本当はとっても怖かったのヨ。往復の車中は穏やかな星空なのに、よりによって登攀中に限ってひどい風雪。10mも登る
とプロテクションの少ないロープは強風にあおられて大きく波打ち、パートナーは半分白濁して見えなくなる。コールは届かず、ピッチを切っても眼球に無数の
ミゾレ片が止む暇もなく正面から叩き付けて来るので、顔をしかめて目を固く閉じたまま手探りでアンカーのセットやビレイロープを引く有りさま。僕にとって
は大試練。普段なら退却してる。相手は大自然。絶対いつかはミスるもの。一方では突っ込んだ以上そんな時もあるさとは思う。けどたまにリードするたびに
「なんでこんなピッチを引き受けちゃったんだろう」って後悔する。異次元の遊びゆえ比べちゃいけないと知りつつも、どこぞの乾いた「5.10a」より「3
級+」のミックス壁の方が遙かに困難に思えた。
急速に天候が回復し始めた針葉樹の森の中。ザックを降ろして久々の激しい山行を振り返る。全身の疲労感が心地よい。オールリードでなければ持ち帰るつも
りだった1本のピースに、ここぞとばかり火を着ける。吉田君ありがとう。またしても僕は今週も生かされた。
* * * * *
アルパインクライミングは季節や天候、雪の状態やルートの取り方、メンバー構成や体調など、様々な条件(不確定要素)によってグレードがどうにでも変化
する。むしろその変化に合わせたクライマー側の対応力が試される点で一種の醍醐味も醸し出しているらしい。今回の山行を極めて客観的に見れば、その点で吉
田君は同ルートを2ヶ月連続で登攀して絶対に損は無かったはずだ。
例えば沢登りも広義でのアルパインクライミングに属するだろう。特に当会の場合往々に起こり得る、高巻きのルートファインドに思わぬ苦労をした話などが
そうであるように、アルパインクライミングにおけるガイドブックのルートグレードは、あくまでも参考程度に留めておきたい。もっと言えば、ルートのノーマ
ルかバリエーションかに無関係で、そもそもはそれが「登山」の本質なのだと思う。その点、一般論としてのフリークライミングは、登山に比べて不確定要素自
体がかなりクリアされたスポーツなだけに、万人が手を出して楽しみやすいことは確かだ(無論「浅薄だ」という意味ではない)。
やむなくジム等人工壁でアルパインクライミングを想定したトレーニングをする際は、フリークライマーの迷惑にならない範疇で、難ルートを登ることよりも
まずは他人の目を気にせず、最後の着地まで余力を残した「クライムダウン」を徹底的に行うべきだと思う。周囲に流されて、決して飛び降りる癖をつけてはな
らない。当然ながら自分も石垣ではそこに重点を置いている(だから見つかっても逃げ遅れるのだが...)。